ドイツのサッカーチームでは、どんな走り込みをするの?

みなさんいつもブログを閲覧して頂きありがとうございます。
日本に一時帰国した際に、お会いした指導者の方からよく聞かれる質問があります。
『ドイツのサッカーチームって、どんな走り込みをするの?』
今回は、そんな疑問に対して私がブンデスリーグ女子で働いている経験を踏まえて答えたいと思います。
1️⃣:海外の走り見込み事情

私が働いているチームでは、以下のタイミングでスポーツ科学に則った走り込みのトレーニングを実施しています。
✅週1回のスプリントトレーニング
シーズンに入ると1回/週のスプリント時の最大速度を上げる為に20分のスプリントトレーニングを実施しています。
✅スプリントパフォーマンスのアクチベーション
試合の3日前に30m×3のメニューを試合時のスプリントパフォーマンスのアクチベーションの為に取り入れています。
✅プレシーズンの強化期間
プレシーズンでは、最低1回/週は、持久力を向上させる為のプログラムが提供されます。
✅コンディショニングとしての走り込み
・ブンデスリーグ女子は、夏に約1ヶ月半、冬に2週間のオフ期間があります。そのオフ期間に選手達は、アスレティックトレーナーから個別メニューを貰い基礎持久力を鍛える為のトレーニングをしています。
・目的とする最大負荷をかけ切れなかった日は、翌日にスプリントメニューを加えコンディショニングプランの微調整を加えるコトもあります。
私のチームだけでなく、おそらくどこのチームも似た様な方法で走り込みを取り入れているのではないでしょうか。
いくつか、ブンデスリーグでのスプリントトレーニングの様子を紹介します。
○FC Bayernのスプリントトレーニング。
※スプリント時に最大速度を出させる為に、レジスタンスバンドを活用しながらダイナミックなフォーム作りをしています。
○FC Schalkeのスプリントトレーニング。
※重りを利用したスプリントトレーニング。
○Borussia Dortmundで行われているメニュー。
日本でもよくみるスタイルですね。
○ドイツ代表のスプリントトレーニング。
※腕立ての姿勢からのスプリント。
2️⃣:日本の走り込みと海外の走り込みの違い

日本では、精神や忍耐力、いわゆるメンタルを鍛える為に走り込みを利用しているサッカーチームも多くあると思います。
日本で『走り込み』と聞くと、少なからずメンタル強化というイメージが付き纏います。
私は、ドイツのいくつものサッカーチームのトレーニング見学をしてきましたが…
ドイツでメンタルを鍛える為の走り込みは、見たことがないのが現状。
2014年にヨーロッパ視察をした際、あるチームで指導者とこんなやりとりがありました。
私 ”日本は、走り込みのトレーニングを行う傾向が強いけど、ドイツも定期的に取り入れるんですか?”
指導者 ”何を目的としてだい?”
私 ”持久力やメンタルを鍛えたりとか…”
指導者 ”えっ。メンタルって…日本ってまだそんなコトしているの?”
驚かれ、少し恥ずかしい気持ちになりました。
ドイツでのサッカーチームでは、メンタル強化を目的とした走り込みは一般的ではありません。
アスレティックトレーナーが、スポーツ科学に則って行うのが一般的です。
日本とドイツの走り込みの違いは、このメンタル強化を目的とした走り込みが一般的かどうかの違いと言えます。
3️⃣:なぜ、メンタルを鍛える為の走り込みがないのか…
社会のあり方や国民性も関係していると思います。
日本社会では”我慢強さ”や”根性論”などが美化される側面があり、”ブラック企業”や”過労死″という言葉がある位です。
フランス人の友人と話していて、”日本人は死ぬまで働くヤツもいるんだろ?”
と、聞かれたコトがある位…
その様な社会的な影響もあり、メンタルを鍛えるコトを目的とした走り込みがまだ、当たり前の様にあるのではないでしょうか。
ドイツ人は日本人同様、ヨーロッパの中では我慢強く、マジメな人種とされています。
ドイツでもサッカー選手として”献身性”を持ってチームの為に働ける選手はとても評価されます。
日本人とドイツ人は似ている部分はありますが…
決定的に違うのは、ドイツ人は徹底的な合理的思考をする国民性だというコト。
ドイツ生活でも…
”ドイツの社会は合理的なシステムで作られている。”
と感じるコトがよくあります。
合理的な思考をするドイツ人だからこそ、スポーツ科学に基づいたエビデンスのある走り込みのプランを組み立てている印象です。
私のチームでも、”走り込み”のトレーニングはあります。
しかし、そこには必ずスポーツ科学に基づいたエビデンスが存在しているのです。
特にプレシーズンでは、”HIIT”でスポーツ科学的な裏付けを取った走り込みを行います。
HIITについては、以下の記事を参考にして下さい。
Vol.145 【HIITトレーニング】海外でよく耳にする”タバタ”とは?
4️⃣:GPSによって走り込みが変化している
ここ10年位でしょうか、サッカーチームで定着したGPSのデータ収集によりGPSに関わる様々な研究が進み、トレーニング方法が見直され始めています。
特に試合中のスプリント回数、最高速度を強化する為に、スプリントトレーニングをどのタイミングでどの位の量をどんな方法で取り入れるかの議論はよくされています。
その影響もあり、ドイツではスプリントトレーニングなどの重要性が見直され始めています。
実際、ブンデスリーグ男子のトップチームでは、どのチームもGPSデータ解析の為に、何人もの専門家を雇っています。
5️⃣:まとめ
『ドイツのサッカーチームでは、走り込みはしますか?』
という疑問に対して答えました。
この記事に関しては、決してメンタル強化を目的とした走り込みを否定したものではありませんし、肯定したモノでもありません。
どちらが良いというのではなく、現地で働いている現状を伝える為に書きました。
ドイツの現場はこの様な現状ですが、国民性も体格も異なるラテン系のスペイン。ドイツと同じゲルマン系民族のオランダ、ダイナミックなサッカーが特徴のイギリスあたりもどの様な取り組みをしているか興味深いです。
それでは。